一年間御礼清掃の暖かい冬の日

風もなく暖かい…今にも泣き出しそうな空模様、お山には後光の輝いて、あたりを幻想の世界に誘っているような気配に満ちていました。先月末から僅か10日日余り、秋の季節の移ろいは、釣瓶落しに似て、秋と冬とを往来し、コロナ禍を一段と混乱させたいと願っていると…奥之院開基堂などでのお行をされた方々には、年々杉の枯れ枝の多いことが目につくとのことでした。温暖化の影響か、突風の吹き方が昔と違っているのやもしれません。山向こうで、野猿を追い払う、花火のパンパンという音が響いて、食べ残っている柿などの明日を想起させてくれます。銀杏はすっかり落葉しましたが、今年は未だ暖かく、紅葉は心残りであると葉を残し、沈丁花の蕾は準備万端にして、水仙、南天、万両などこれから天下と張り切っていました。そして、奥の院までの長い参道や多くの御堂について修理などされましたお同行様に心より感謝申し上げるものです。六地蔵お百度行場、水子地蔵さま、位牌堂周辺、参道などすっかり綺麗になり、皆さまの想いが込められた一年間御礼清掃の日でした。

  

親先生より、12月は、「面授(生身の人と人との『出会い』を大事にすること)」といただききました。

「岩波仏教辞典(中村元他・編)」には、『師が弟子に面と向かって口伝えに法門上の教養を伝えること。面授口訣とも言い、禅宗では、面授嗣法という。〝仏法の要義は師から弟子へ誤りなく伝えられねばならないが、そのため、師は弟子の資質を見極め面々対峙して口づてに法門の深旨を伝える』と、あります。 また、面授につき、「口伝(くでん)」、口授(くじゅ)、口訣(くけつ)」とも言うとあります。筆録することをよしとしない法門の秘法・作法などの奥義(おうぎ)を、伝持に耐えられると思われる少数の弟子を選び、師より口ずから相伝することを言う。転じて、師の口より直接伝授された奥義・秘儀のたぐいをも言う。特に密教では、秘密の口伝が尊重され、「十二口伝」を数える。密教相伝3種の本経・儀軌(ぎき)・口伝中の最後の訣(奥義・秘伝)は口伝による。したがって、筆録文書中にも符号や脱落・乱文を用いて口伝の余地を残させた一連の書物がある。……口伝は、インド以来、教えの聖性保持のための不立文字(ふりゅうもんじ)に発するわけで、各宗に宗要義の口伝法門がある。…と、あります。

  

『空海の風景・下(司馬遼太郎・著)』には、空海から最澄に宛てた文に『しばらく、三種あり、一つには、聞くべきの理趣、二つには見るべきの理趣、三つには念ずべきの理趣なり。もし、聞くべきの理趣を求むれば、聞くべきは即ち汝が声密(せいみつ)これなり。汝が口中の言説これなり。見るべきは色(しき)なり。汝が四大等、すなわちこれなり。念ずべきは、汝が一念の心中に、本来、つぶさに有り。更に他の心中に索(もと)むるを須(もち)いざれ。 必ず三昧耶を慎むべし。三昧耶を越すれば、すなわち伝者も受者も倶(とも)に益なし。 我もし非法にして伝えば、すなわち将来求法(ぐほう)の人、何に由ってか求道の意を知るを得ん。非法の伝受、これを盗法と名(なづ)く。すなわちこれ、仏を欺(あざむ)く。また秘蔵の奥旨は文を得ることを貴しとせず。ただ、以心伝心にあり。文はこれ糟粕(そうはく)、文はこれ瓦礫(がれき)なり。糟粕瓦礫を受くれば、すなわち粋実至実を失う。』などとあり。 最澄の『理趣釈経』借経すなわち「筆授」の申し出に、「面授」でないものは「盗法」と言っている。真言密教は、面授でなければ、伝わらないのだと思うところ…。

  

宗祖お上人様の語録「心のともしび」には、『(御開山様は)、「現在のご信心、仏教は理に走り、学に陥り、形に流れておる」ということを、よくおっしゃっておりました。』と、あります。――時がたち、人が変わるにつれて、形に流れ、学に陥り、ついに、その真実の<おじひ>のおみのりが忘れられてしまったのが、現在のありさまです。「われ大僧正なり、学者なり」という人はおるけれども、実際にそり理を行うことができない。したがって、衆生が助かることがない。そういう時代です。身語正は飾りではありません。伊達ではございません。我が身の真実、まことをもってぶつけていく信心でございます。体験のご信心でございます。体得の信心でございます…と、あります。 

私事ではありますが、自身にも多々病あるも、ありがたくも悪化が抑えられていること、近親の兄弟などには、このところ数度に亘り、病気平癒のご祈願をいただき、これらが快気に至っていることなど、有難く感謝申し上げることばかりであります。偏に親先生におすがりしてのことであります。衷心より感謝申し上げることであります。

  

新型コロナウイルス感染症は、日々新規感染者数が激減し嬉しいことではありますが、最近では、南アフリカに始まると言われます「オミクロン株」という変異株の新種が、ワクチンが効かないタイプではないかとの疑いがあるとのこと、第6波の脅威が目前に迫りつつあるやもしれません。関係者の方々には、体力の回復を急いでいただくと共に、体制の強化・改善をお願いしたいものです。新薬やワクチンの開発、水際対策、感染防止対策など、様々な対処が必要であり、先手の措置が必要と感じてしまいます。経済も好転しなければならず、皆の努力が不可欠です。マスク、手洗い、密にならないなど基本を守りましょう。 新型コロナウイルス禍の一日も早い終息を強く願うものです。そして、今年一年の無事を深く感謝するものです。

(合掌)

管理人