紅葉の中 ご恩日のお参り

久し振りのご恩日のお参りは、快晴の秋の空、赤や黄の紅葉が美しく、身も心も清められる感覚が嬉しい境内にうっとりさせていただくものでした。最近では、猿の群れが柿など食べ荒らすのみならず、石造の仏さままでもイタズラする子ザルがいるそうです。親先生には、なんとか、共存の方法を見つけたいとのことでした。「それでしたら、近くの美郷町の『雅ねえ』さん(テレビにも出られて有名人ではありますが)に相談してみられてはいかが」と、後になって思うことでした。もう一つ、親先生には、本堂の石垣の下に毛氈を敷き、大傘を立て掛け、秋の風情を楽しんでおられました。

  

親先生より11月は、「大心(大いなる心で相手の心を受け止め、こだわりや、偏りなく、空のごとく、海のごとく)」といただきました。

道元禅師による『典座教訓』に、次のようにあります。「謂(いわ)ゆる大心とは、其の心を大山(だいせん)にし、其の心を大海にし、偏(へん)することなく、党(とう)すること無きの心なり。両(りょう)を提(ひっさ)げて軽(かろ)しと為(な)さず、鈎(きん)を扛(あ)げて重しとすべからず。春声に引かれて、春沢(しゅんたく)に游ばず。秋色を見ると雖(いえど)も、更に秋心無し。四運(しうん)を一景(いっけい)に競(きそ)い、銖両(しゅりょう)を一目(いちもく)に視(み)る。是の一節に於いて大の字を書すべし。大の字を知るべし、大の字を学すべし。」と。

[概説]「大心」とは、『典座教訓』の中で、『大きな山のようにどっしりと構え、大きな海のように広々とさせて、一方に偏よったり、固執したりすることの無い心であると。 また、一両を軽いとか、一銖を重いとか、大袈裟に言わず、春を告げる鳥の声にも春に浮かれて遊ばず、秋の色づく紅葉を見ても侘しさを覚えず、春夏秋冬の成り行きを一景に読み取り、一銖、一両の目方も一目に視る。ここにおいて大の字を書くと良い。大の字を知るのがよい、大の字を学ぶのがよい』であると。

  

『典座教訓・すずやかに生きる(青山俊董・著)』には、逸話の紹介があります。著者の尼僧さまがご懇意のある社長から「会社が多額の負債で倒産する」との相談を受けたそうです。その社長からは「あまり辛いので仏さまの手の中に逃げようと思ったり、逃げるのは卑怯と思ったり…」と言う言葉が口から出てきて…。 尼僧さまは、即座に、「それは心得が違う。仏さまは、逃げるなと、仰せになる。姿勢を正して受けて立てと、仰せになる。『坐禅の姿勢で…』とは、どういうことか。キョロキョロ背比べするな、あせって前のめりになるな、調子がいいからといい気になるな、駄目になったからといって意気消沈するな、苦しいといって逃げ出すな、我が荷物を積極的に姿勢を正して受けて立つというのが仏教の教えです。」と。『泥多ければ仏大なり』というが、仏をつくる素材である泥という‶負債〟はいただいたものの、どうやって仏を作り上げるか。全身心を仏の家に投げ入れ、虚心に仏の教えを聞きつつ、いただいた場を道場とし、授かった仕事を具体的修行の材料として、ひたすら行ずるよりほかにないと。 その社長は、涙しつつ「生まれ変わってやりなおします」と言い、頭を剃って、絡子(らくす)を着て出直しますと。

その社長は、文字通り捨て身で、体当たりでぶつかってゆき、正直に話し、お詫びし、お願いもして歩き、おどろくほど多くの方々からご協力をいただくことができたと。 尼僧さまは『頭を剃り、絡子を掛けて出直したこと。つまり凡夫の社長が死に切り、捨て切ることができたお陰で、乗り切ることができた。捨て切ったとき始めてそこに仏の働きが現れ、丸ごと抱きかかえられていたことに気付くのである』と、説かれたそうです。

  

お上人様の語録『心のともしび』にも、これとよく似た話しが出てきます。『おまかせの信心』です。 お上人様最後のお言葉は、『身語正のご信心というものは、<おじひ>というものは学問じゃないぞ。学問に頼っても駄目よ。知恵に頼っても駄目よ。あの方は偉い方だ。博士だ。大僧正だ。管長さんだ。偉い方だ。人に頼っても、本当の<おじひ>のおみのりはいただくことはできんぞ。人に頼るな。学問に頼るな。瀧場の仏様に、お不動様に、お地蔵様でもよか。観音様でもよか。お薬師様でも、文殊様でもよか。自分の好きな、ほおっと思う仏様に、ぶつかっていけ。仏さまを信じろ。仏にぶつかっていけ。そうすれば朗然(ろおぜん)として胸は開けて、授かることができるぞ』とあり、最後のお言葉となったとのこと。 身心すべてをゆだねておすがりするということであると。

新型コロナウイルス感染症は、日々新規感染者数が減少し、嬉しいことですが、最近では、南アフリカ株という変異株の新種が、ワクチンが効かないタイプではないかとの疑いがあるとのこと、第6波の脅威が目前に迫りつつあるやもしれません。この機に関係者の方々には、体力の回復と共に、体制の強化・改善をお願いしたいものです。新薬やワクチンの開発、水際対策など、様々な改善が必要と感じてしまいます。 新型コロナウイルス禍の一日も早い終息を強く願うものです。

(合掌)

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